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自然に学ぶものづくり

 ここ数千年間で人間はいろいろな技術を急速に開発・蓄積してきましたが、このことが人間と地球との共存を危うくしています。地球という巨大な生態系は、30億年以上の長い時間をかけて、いろいろな動揺にも耐えうる素晴らしい仕組みをつくりあげてきました。これについての人間の理解もかなり進んできましたが、まだまだ解明されていないメカニズムがたくさんあります。これらを解き明かし、人間と地球の共存に役立つ技術を生み出す試み、いわゆる自然に学ぶ姿勢がとても重要だといわれています。
 「氷温技術」は創始者山根昭美博士の技術思想「自然に学べ」を基本軸として開発研究された食品の貯蔵と加工に関する技術群の総称ですが、同様に、環境問題の解決に関わる技術を含め多分野で、この自然に学ぶというスタンスで開発された技術が近年、加速度的に増加してきています。
 こうした自然に学んだ技術開発、ないしは自然に学ぶものづくりについては欧米でも注目されています。このブームを創出した一人が、「自然の叡智からの革新」を副題とし、「自然と生体に学ぶバイオミミクリー」という邦題の本を著したジャニン・ベニュス女史です。このバイオミミクリーは、耳に新しい言葉ですが、生物を意味するバイオと、模倣を意味するミミックの合成語です。直訳は「生物模倣」であり、自然に学ぶものづくりと相同の言葉でもあります。
 ベニュス女史が提言するバイオミミクリーの九つの基本原則をそのまま引用してみます。
 1.自然は、日光を燃料にする、2.自然は、余分なエネルギーを使わない、3.自然は、形態と機能を調和させる、4.自然は、すべてのものをリサイクルする、5.自然は、協力するものに報いる、6.
自然は、多様性に投資する、7.自然は、地域の叡智を要求する、8.自然は、内部から行き過ぎを抑える、9.自然は、限界から力を生み出す
 さらに、特筆したいのは、バイオミミクリーの未来を目指すための四つの段階が提起されていることです。それは、まず、「沈思する=自然に身をゆだねること」、そして「耳を傾ける=地球上の動植物に聞く」、次いで「伝える=自然をモデルや手段にする生物学者とエンジニアの協力を促し、多くの人々に伝えていくこと」および「養い・育む=生物の多様性と天分を保護すること」です。このように、ベニュス女史は新しいものづくりの概念を提唱されていますが、実は、日本発の自然に学ぶ技術の多くがこれに相当し、さらに日本の匠の歴史を知る方々にとっては、それがかつての日本のものづくりシステムそのものであることに気付きます。
 ヨーロッパでは昔から、知恵を運んだ四人の博士は東から来たとされています。ゆえに、今でも教会は必ず東の方に正門を向けています。それが「オリエンテーション」と呼ばれるように、持続可能なものづくりの知恵と技術を、東から、さらには日本から発信していきたいものです。
 
引用・参考文献
 1)(社)農林水産技術情報協会 編集(1979)「技術開発の新領域」、東京.
 2)梅棹忠夫ら(1982)「地球時代の食の文化」、平凡社、東京.
 3)イボンヌ・バスキン(2001)「生物多様性の意味」、ダイヤモンド社、東京.
 4)赤池 学(2005)「自然に学ぶものづくり」、東洋経済新報社、東京.






 
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