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超氷温の世界で生き続けるコウモリ

 冬になると自然界に食物が不足するので、多くの動物は生存の危機にさらされます。そのため、渡り鳥のように食物を求めて暖かい土地に移住するもの、あるいは冬眠に入るものがいます。この冬眠の場合、いろいろな動物が冬になって代謝が低くなるのは、寒さ、食物の不足、その他不利な環境条件に対して体を防衛する手段としておこるものと解釈されています。生理的な低体温は原始的な哺乳動物に季節的にあらわれるだけでなく、肉食獣のようなかなり進化した動物にもみられます。
 また、その冬眠誘導温度、冬眠中の温度は生物の種、生息場所等によってそれぞれ異なります。そこで、その冬眠温度をとらえた場合、生きものが凍り始める温度(氷結点)より低い温度(過冷却状態;超氷温)で冬眠する例は多く観察されていますが、その殆どが昆虫、爬虫類、魚類であり、動物に関するものは極めて少ないものです。その動物に関する報告として有名なのは、ある種のコウモリ(Myotis licifugus)の例です。このコウモリは、通常、洞窟内で越冬するのですが、体温が過冷却状態になっても生き続けていることが確認されています。つまり、これらコウモリなどの翼手類の動物の中には、血漿の氷結点(約-0.6℃)以下にさらされても凍らないで生存し続けることができるものがいるということです。
 例えば、このコウモリは、体温が5℃になると、わずか10回/min程度まで心拍数が下降し、休眠状態になります。そこからさらに、体温が低下すると、一般の動物とは異なり心拍数が上昇に転じ、-5℃に到達するときには200回/minにまで達し、その後体温が徐々に上昇し、5℃に到達します。これをくり返すことによって、エネルギー効率的にも無駄なく、凍らないで生き続けることができるのです。この状態のコウモリは、5℃で冬眠し続けるコウモリと比較して60~80%以上の省エネルギーが可能であると算出されています。さらに、過冷却状態のコウモリは無呼吸状態に近く、心臓の活性もわずかである、との報告もあります。
 また、ちなみに、体温が下がり、-5℃に到達した時、このコウモリに針を刺すと、直ちに凍結してしまうそうです。しかし、このコウモリが不凍物質を血液中などに保有しているというデータは現在のところありません。
 同様に過冷却状態で生存する動物の例として、極地方のリス(Spermophilusparryii)の報告があります。極地方のたいていの哺乳類は、冬季が長く、厳しいので冬眠しないのが普通ですが、この種のリスは例外で、数ヶ月間、土中で、-18℃という低温下で凍らないで冬眠します。調査の結果、体の中央部の体温は-2.9℃であるのに凍結しないのですが、コウモリの場合と同様に、血液中に不凍物質などの存在は確認されていません。どのようなメカニズムでこれらの動物は、過冷却状態の中で生き続けるのか、さらなる研究が進められています。






 
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