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「コク」って何?

 氷温熟成食品を口にされた方が「コクがあっておいしい」と評価されるのをよく耳にします。「コク」は、熟した食べものを口にしたときのような豊かな味わいを指し、酒などの深みのある濃厚さに対してよく使われたものが一般的になったようです。「コク」の表現には、厚み(thickness)、広がり(mouthfulness)、芳醇性(richness)があります。さらには、立ち上がりの早さ(punch)、奥深さ(depth)、幅の広がり(amplitude)、持続性(continuity)、後味(after-taste)、さらには、嫌な味を抑えて好ましい味を強めるといった滑らかさ、バランスのよさ、すなわち、まろやかさ(smoothness)も含まれます。つまり、「コク」とは、おいしさの厚み、広がり、持続性、まろやかさなどが増強された状態ととらえることができます。
 では「コク」とは何か?日常的によく使う言葉の割には、学問的にも、国際的なコンセンサスの面からも今日もなおその本態は明確ではないようです。従いまして、「コク」を科学的に説明することは確かに難しいのですが、間違いなく言えるのは、口の中の数多くの味蕾(舌や軟口蓋にある食べ物の味を感じる小さな器官であり、人間の舌には約10,000個の味蕾があるとされる)が刺激されること、その活動が持続することが必須の条件だろうということです。そして、そのような味覚の情報は嗅覚、触覚、温度感覚など他の感覚情報とともに脳で処理、統合され、その結果「コク」として認識されるのです。つまり、「コク」の効果は脳細胞集団の奏でる交響曲ともいえます。もし「コク」がなければ同じ曲を室内楽あるいはソロで奏でるようなものです。
 さて、「コク」のある食べ物に含まれる物質を分析することにより、次に示すような「コク」を生じさせる可能性のある物質が近年、候補にあがってきました。
 1)グリコーゲン
 2)脂肪
 3)アリイン、S-プロペニルシステインスルホキシド、グルタチオンなどの含硫物(これらはニンニクやタ
マネギに含まれる)
 4)各種のペプチド(酵母由来のペプチド、牛肉由来のペプチド、糖ペプチド、メイラードペプチドなど)
 5)各種の遊離アミノ酸の混合物(かつおだしなどには多くの遊離アミノ酸が含まれる)
 また、熟成や調理時間の短い食べ物に、このような物質を添加することで、てっとり早く「コク」を出すことも可能になります。
 ところで、「コク」を英語ではどういうでしょうか?上述でも、厚み、広がり、芳醇性などについての英語をすでに紹介しましたが、それらを全て含んだ概念が「コク」であるならば、それに相当する英語はありません。池田菊苗博士が昆布のおいしさのエッセンスに名づけたうま味が今や世界のumamiになったことを思えば、「コク」が世界の共通語になる可能性もあります。

引用・参考文献
 1)山口静子(1999)うま味の文化・UMAMIの科学、丸善、東京.
 2)日本味と匂学会編(2004)味のなんでも小辞典、講談社、東京.
3)山本隆(2010)「おいしさ」と「こく」、おいしさの科学13:50-54.






 
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